オムロン・スイッチオン!!

Tech-On!取材班が、オムロンのスイッチの秘密に迫る Vol.2 キャノン様編 キャノン開発担当者に聴く!どんなデジタルカメラにでも使えるスイッチを創れないか

キヤノンの小型デジタルスチルカメラに全面展開されたサーフェスマウントスイッチ「形D3SK」

 機構の位置検出に使う超小形タイプのスイッチとして開発されたオムロン スイッチアンドデバイスのサーフェスマウントスイッチ「形D3SK」。キヤノンは、コンパクトタイプのデジタルスチルカメラ(DSC)に組み込む検出スイッチに形D3SKをほぼ全面的に採用している。形D3SKが、これほど高い評価を受けた背景には、顧客が提示する高い目標に果敢に挑み、一緒に製品を創りあげるオムロン スイッチアンドデバイスの真摯な姿勢がある。

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サーフェスマウントスイッチ「形D3SK」

サーフェスマウントスイッチ
「形D3SK」

世界最小を目指す

 形D3SKは、本体から突出したレバーを押し込むことで、オン/オフするスイッチである。レバーがL字型になった「垂直レバー」を採用しており、このレバーの垂直方向と水平方向のいずれから力が加わってもレバーが動くようになっている (図1)。 機構部品を一定以上動かしたときに、レバーに接触するように同スイッチを取り付けることで機構部品の位置や状態を検出する用途などに使える。
 形D3SKの大きな特長は、外形寸法が小さいこと。実装時の占有面積は3.0mm×3.5mmと小さく、高さは0.9mmと低い。 「世界最小を目指して開発を進めました。特に小型・薄型化が進んでいるモバイル機器に採用していただくには、高さを徹底的に抑える必要があります。そこで、当初から高さは1mm未満にすることを前提に設計しました。」(オムロン スイッチアンドデバイス 商品開発部 業民スイッチ開発グループ 清野泰弘氏)。

清野秦弘氏

清野泰弘
オムロン スイッチアンドデバイス
商品開発部
業民スイッチ開発グループ
 

図1 サーフェスマウントスイッチ「形D3SK」

図1
サーフェスマウントスイッチ「形D3SK」
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キヤノンでの標準スイッチになる

 このスイッチを、最初に採用したのがキヤノンで、コンパクトタイプのDSCを設計している部門だった。2008年に発売したDSCから形D3SKを採用している。電池とメモリカードを装填する部分に取り付けてあるフタの開閉検出や、ポップアップストロボの位置検出が主な用途である。「こうした検出スイッチは、ほぼ全機種で1台あたり1個~2個は使われています。現在では、そのほとんどに形D3SKを採用しています (図2)。 形D3SKを上回る特性を備えたスイッチが、いまのところ市場に見あたらないので、採用を継続しています。」(キヤノン イメージコミュニケーション事業本部 DCP第一開発センター 江藤和彦氏)。

 2008年以降、形D3SKを搭載するDSCの機種が増えるにつれて出荷数量は急増している。「当初は1機種だけで採用されていましたが、複数機種に展開していただいたことで2010年には出荷数量が、当初の約100倍に増えました。」(清野氏)。形D3SKを採用する動きは、同社の他事業部門にも広がっており、最近では一眼レフタイプのDSCやデジタルビデオカメラでも搭載されているという。いまやキヤノンのカメラ部門における「標準品」ともいえる地位を形D3SKは獲得しているわけだ。

図2 2011年9月に発売されたキヤノンのコンパクトデジタルカメラ「IXY 600F」

図2
2011年9月に発売されたキヤノンのコンパクトデジタルカメラ「IXY 600F」
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江藤和彦氏

江藤和彦
キヤノン株式会社
イメージコミュニケーション事業本部
DCP第一開発センター

難度の高い要求を盛り込んだスイッチをシリーズ化

 形D3SKが、生まれるきっかけとなったのは、オムロン スイッチアンドデバイスが2006年に先行して製品化したサーフェスマウントスイッチ「形D3SH」を、キヤノンに売り込んだことだった。形D3SHは、形D3SKと基本構造が同じで、そのレバーは被検出物が接触する面が斜面になった「斜めレバー」を採用していた (図3)。 形D3SHの基本構造を流用しながら、キヤノンの要求を盛り込む形で新たなシリーズとして再設計したのが形D3SKである。「形D3SHは、残念ながら私たちの設計の基本的な考え方に合っていませんでしたが、ちょうど当時採用していた別のメーカーのスイッチの代替品を探しているところでした。そこで、私たちの要求を提示して、それに合ったスイッチを提供できるか打診することにしました」(キヤノン イメージコミュニケーション事業本部 DCP第一開発センター 加藤収一氏)。

 キヤノンが、提示した条件の機軸となったのは、様々な検出機構の設計に柔軟に対応できるようにすることだった。「社内で汎用的に使えるスイッチを探していました。部品を調達するうえで有利だからです。ただし、個々の検出機構の設計はDSCの機種や用途によって異なります。様々な機構に柔軟に対応できるようにするには、スイッチ周辺の設計に自由度をもたせる必要がありました」(加藤氏)。例えば、スイッチの動作点(オン/オフが切り替わるポイント)、スイッチの取り付け位置、被検出物の寸法や位置など様々なところで生じる公差が積み重なって検出機構の精度が決まる。「それらの公差を少しでも小さくできれば検出機構の設計が楽になるはずです」(加藤氏)。

加藤収一氏

加藤収一
キヤノン株式会社
イメージコミュニケーション事業本部
DCP第一開発センター

最適な垂直レバーの形状を追求

 キヤノンがオムロン スイッチアンドデバイスに提示した条件は、垂直レバーを採用すること。「被検出物の位置や寸法のばらつきの影響を排除しやすいことから、従来から垂直レバーを備えたスイッチを採用していました」(加藤氏)。垂直レバーでは、被検出物がレバーの垂直部分に接するので、それが多少上下にずれたとしてもスイッチの動作点はほとんど変わらないからだ (図4)

 「スイッチ内部の構造は、形D3SHのものを流用することにしていたので、レバーの変更だけで簡単に済むと思っていました。ところが実際に検討を進めると、動作特性や信頼性の確保のため、隅々までレバーの形状を最適化しなければなりませんでした。(清野氏)。

独自のスイッチ機構が高精度を実現

 もう一つの条件は、スイッチの動作点の精度を引き上げることだ。「検出機構全体の精度を確保するうえで、検出スイッチの動作点は重要なポイントです」(加藤氏)。このため、キヤノンでは以前採用していたスイッチは、動作点が一定の範囲内にある選別品を使っていたという。 形D3SKの動作点は、形D3SHで確立した独自のスイッチ機構を採用したことで、高い精度を実現できた。形D3SKは、カバー、レバー、接点バネ、ベースの4点で構成されている (図5)

 これらの部品のうち、可動接点とレバーを復帰させるためのバネの役割を兼ね備えた「接点バネ」が重要な役割を担っている。ベースにはプリント基板に実装するための端子と、それにつながる固定接点が形成されている。これにレバーの動きに連動した接点バネが接触することで、オン/オフする仕組みになっている (図6)。 このスイッチ機構では、ベースにある固定接点の位置精度、接点バネとレバーの寸法精度で、ほぼ動作点の精度が決まる。そのため、それぞれの部品の寸法精度を追求することで、動作点の精度を高めることを可能にした。

両社で一緒に技術を磨いたスイッチ

 両社の間で何度もやりとりしながら形D3SKの開発が進み、2007年 5月には2008年春に発売するDSCに搭載することが決まり、開発もいよいよ最終段階に入った。「信頼性試験を実施すると、新たな課題が浮上してきました。これを一つひとつ解決しながら形D3SKの最終仕様を固めていきました」(清野氏)。
 例えば、最新のリフローハンダ付けにも対応するために、耐熱性をさらに高めた樹脂材料に変更したり、端子の配置を修正して放熱性を高めたりといった対策を施した。接点部分に塗布するグリスの材料も見直した。さらに、キヤノンの生産部門の要望を採り入れて、画像認識装置でハンダ接続部の検査が確実にできるように、L字型の端子形状を採用した。これだと真上からカメラで撮影できるからだ。「キヤノンとオムロン スイッチアンドデバイスの両社が協力しながら形D3SKの設計に磨きを掛けていきました。両社で育てたスイッチだと思っています」(加藤氏)。
 

editor's note

顧客とともにスイッチを創りあげる

 ベンダーとユーザーが協力しながら、ユーザー向けに設計を最適化することはエレクトロニクスの業界では珍しいことではない。だが、当初ベンダーが提案した製品よりも、性能や機能で上回る製品が生まれるケースは必ずしも多くはないのではないだろうか。

 性能や機能を顧客が高く評価し、積極的に数多くの製品に展開されている形D3SKは、顧客の要求を真摯に受け止め、顧客とともに新しいスイッチを創りあげる姿勢が確立されているオムロン スイッチアンドデバイスだからこそ実現できた製品だといえるだろう。

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