会長メッセージ

将来にわたる価値創出に向けて。進化し続けるオムロンユニークなガバナンス。2020年9月 オムロン株式会社 取締役会長 立石文雄

これまでオムロンは、企業理念に基づき、コーポレート・ガバナンスを進化してきました。2015年には取締役会評価を導入し、取締役会の実効性の向上を強化しています。不確実な時代だからこそ、「取締役会の実効性」が問われます。今回は、取締役会の実効性について、具体例をもって取締役会議長である立石文雄会長に話を伺います。(聞き手|統合レポート編集部)

編集部(以下太文字):1990年代、日本のコーポレート・ガバナンス草創期から、オムロンはガバナンスシステムの構築と強化に取り組まれてきました。オムロンが取り組んできた取締役会の進化についてお聞かせください。

オムロンのガバナンスの歴史は、1996年、当時の会長であった立石信雄氏が経済協力開発機構(OECD)の経営諮問グループの委員に日本代表として参画したことに遡ります。OECDの活動からガバナンスの重要性を認識し、日本企業にもコーポレート・ガバナンスの導入が必要であると思い至ります。「隗(かい)より始めよ」で、同年、社内に経営人事諮問委員会(現在の人事諮問委員会)を設置し、1999年には取締役を30人から7人に減らすと同時に、執行役員制度を導入しました。当時の日本では、かなり先進的な取り組みでした。

以来、2001年に社外取締役を招聘、2003年に取締役会議長とCEOを分離するとともに、報酬諮問委員会を設置、2006年には社長指名諮問委員会を、2008年にはコーポレート・ガバナンス委員会を設置しました。また、2015年には取締役会の実効性を測る取締役会評価を導入、2017年には、取締役会の監督機能を向上させるために、取締役会議長である取締役会長を除いて役付取締役を廃止するなど、四半世紀をかけて一歩一歩「取締役会」の実効性を高めてきました。

オムロンのガバナンス体制として特徴的なのは、いずれの諮問委員会にも社長が属していないことです。 

また、すべての諮問委員会の委員長を社外取締役が務めているため、高い透明性・客観性・実効性が担保されています。たとえば、2015年度に導入した「取締役会評価」は、実効性と客観性の両方を実現するために、社外取締役を委員長とし、社外取締役および社外監査役の5名のみで構成するコーポレート・ガバナンス委員会が担っています。

取締役会評価は、毎期「取締役会運営評価」の結果を分析し、その内容に基づいて翌年の取締役会の運営方針と重要テーマを決めています。

このように一歩一歩ガバナンス体制を構築するとともに、直近ではこの取締役会評価のPDCAを回すことで、取締役会の実効性を高めています。

四半世紀にわたってガバナンスシステムを進化させてきた取締役会ですが、2019年度、主力事業の一つ、車載事業を日本電産社に譲渡するという大きな議案を審議することになりました。決定までのプロセスには、いくつかのハードルがあったと思います。どのような議論があったのでしょうか。

オムロンでは、企業理念経営を加速し、長期にわたって企業価値を向上させる仕組みとして、「コーポレート・ガバナンス」を位置づけています。取締役会評価導入以降、取締役会は、中長期の重点テーマを中心に議論する、いわゆる「モニタリングボード」を目指しています。実際、取締役会の議題の7割が中長期の経営戦略に関する内容に変わっています。ですから、車載事業についても、取締役会として、短期、中期、長期の観点で議論してきました。

車載部品市場は、EV(電気自動車)、ADAS(先進運転支援システム)などが象徴するように、100年に一度といわれる大変革時代の真只中にあります。

取締役会では、車載事業の譲渡に関して近視眼的に評価することなく、企業理念に基づいて中長期的な視点から議論し判断しました。これは、1959年に創業者が定めた「社憲」に基づく企業理念経営、1991年から10年単位で見直している長期ビジョンに基づく経営、そして四半世紀にわたるコーポレート・ガバナンスの強化、という3つが揃っていたからこそできたことだと捉えています。

譲渡を検討する中では、取締役会においても「業界平均並の利益が出ている事業を本当に譲渡するのか」、「譲渡するにしても、EV、ADASなどの成長分野への足掛かりとなる車載事業を100%すべて譲渡するのか」といった意見もあり、さまざまな視点から検討が進められました。

最終的な判断を下すにあたっては、3つの論点から議論を重ねました。具体的には、第1に、「企業理念に照らして、車載事業を通じて、オムロンが将来にわたり社会の発展に貢献できるのか」。つまり、オムロンがベストオーナーであり続けられるのか?第2は、「日本電産社の下で、新たな価値が創出され続け、社会から必要とされる存在であり続けられるのか」。つまり、日本電産社がベストな選択肢なのか?そして、第3が、「譲渡した場合、車載事業に従事している社員たちが、自動車業界における社会的課題の解決に向けて、夢を持ち続けることができるか」。という点です。

第1の論点ですが、先ほど申し上げたように、自動車産業は100年に一度の大変革期にあり、車載部品市場もその影響を受けています。オムロンの制御技術が強みを発揮できる車載電子制御ユニット(ECU)は、現在の約70個から将来的には3つのビークルコンピュータへと集約されるといわれています。このような厳しい環境の中、車載事業が5年、10年先の未来にも、オムロンとしての価値を社会に提供していくためには大きな投資が必要でした。しかし、制御機器事業とヘルスケア事業を成長事業として位置づけ積極投資を進めていくという方針の中で、車載事業に同様の投資を行うことは難しい状況でした。以上のことから、競争力があり、売上・利益も十分にある時点で、将来にわたって価値を創出できる相手に事業運営を委ねることが最善であるという考えに至りました。

第2の論点では、モーター技術が強みの日本電産社と、制御技術に強みを持つ当社の車載事業が一緒になれば、競争力のあるモジュールを生みだせる可能性があります。そうなれば、車載事業は長きに渡って自動車産業、ひいては社会に貢献できる、ベストな選択肢である。そう判断しました。

最後の論点は、社員の動機づけについてです。車載事業が日本電産社に移ることで、10年先、20年先も自動車業界に貢献し続けることができ、社員たちが夢を持って仕事に取り組めると判断しました。とはいえ、会社が変わるということは、社員にとって大きな変化です。執行側には、譲渡後も社員が前向きな気持ちで活躍できるように、社員への丁寧な説明をお願いしました。

最も大切なのは、譲渡後に車載事業が社会への貢献により成長することであり、そのことがオムロンの「企業理念」の実践であることです。

結果的にはベストのタイミングで、ベストの交渉を実現できたと思いますが、改めてそれを可能にしたのは、何が大きなポイントだったと思いますか。

ポイントは大きく二つあります。一つ目は、自動車業界における車載事業の将来性です。

もう一つは、取締役会が、中長期的な視点で重要テーマを議論してきていたからです。「監督」と「執行」との間で建設的なコミュニケーションが交わされていたからこそ、適切なタイミングで迅速な意思決定を下すことができました。

また、今回の事業売却の決断は、オムロンの「ROIC経営」に基づくPPM(事業ポートフォリオマネジメント)により決断しました。当社は、2006年頃から投下資本に対する収益性を重視し、ROE、ROAでも事業を評価するようになりました。当時はまだ事業評価の結果指標でしかなかったのですが、山田が社長に就任した後、2013年度からROIC経営を正式に標榜し、各事業に対して、資本コスト以上の投下資本収益率(ROIC)の継続的達成を求め続けています。オムロンは創業以来、ドメインを限定せずにソーシャルニーズの創造にチャレンジし続けていますが、社会的な価値を生み出しにくくなった事業からは撤退し、経営資源を強い事業に集中することにより、より大きな社会的価値を生み出すことに努めています。このように資本コストを意識したROIC経営を今日まで続けてきたことで、車載事業を譲渡するという決心ができました。

現在のコロナ禍、そしてアフターコロナのニューノーマル時代に向けて、取締役会はどのような役割を果たしていかれるおつもりですか。

まず社員たちの健康と安全を守ることを最優先としました。そのうえで事業の継続に取り組むことを執行側に要請し、その両立ができているかをチェックしています。実際には、執行側が社員の安全のためのリモートワークの拡充や、お客さまへの供給責任を果たすための生産の再開にいち早く取り組んでくれています。このように、執行側が迅速に行動できたのは、平時から取締役会が執行側と建設的なコミュニケーションを取り、正しく評価している結果、今回のようなケースにおいても執行側が自信をもってこれらの対応に当たれていると考えています。

次いで、取締役会における2020年度の重点テーマとして、アフターコロナにおけるオムロンのあり方を掲げています。議論のポイントは3つあります。

第1は、コロナ後、社会はどのように変化し、どのような姿になるのか。第2は、コロナ後のニューノーマル時代において、オムロンはどのようなソーシャルニーズを創造するのか。第3は、そのソーシャルニーズを満たす新規事業は何か。既存事業も含めビジネスモデルはどうあるべきか。という点です。

現在の取締役会における最重要課題の一つは、オムロンの成長であり、そのためにはアフターコロナについて考えることがきわめて重要である、というのが我々の認識です。具体的には、新たな事業の柱となる新規事業の創出や、「モノ」から「コト」への対応のためのサービス事業へのビジネスモデルの転換が重要になります。ただし、これらの新たなチャレンジはリスクを伴います。アフターコロナに向けて、取締役会は経験豊富な社外取締役、社外監査役の意見も踏まえながら、執行側の挑戦やリスクテイクを支える仕組みや環境を整備することで、新たなソーシャルニーズの創造を加速していきます。

昨今、証券取引所や機関投資家などは、「ESG経営」「ダイバーシティ経営」をより加速することを求めています。こうしたグローバルな要請に対して、どのように対応されていきますか。

ESGに取り組むことは、オムロンの企業理念の実践そのものです。オムロンでは、「企業理念の実践」イコール「サステナビリティの推進」という位置づけです。つまり、企業理念の実践を加速すれば、サステナビリティ推進も加速されるという考え方でESGに取り組んでいます。

2016年には、サステナビリティ方針を審議し、オムロンとしての重要課題(マテリアリティ)を設定しました。2017年に取締役会の直轄組織としてサステナビリティ推進室を設置して以降、取締役会においてサステナビリティを重要テーマに選定し、進捗や課題を定期的に確認しています。また、サステナビリティの取り組みは、役員の報酬と連動しています。具体的には、サステナビリティ評価指標にダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・インデックス(DJSI)を採用し、これを中長期業績連動報酬に反映させ取り組みを加速させています。

取締役会のダイバーシティについては、早くから社外取締役、社外監査役を招聘することで、文字通り、多様な視点や考え方を努めて取り込んできました。現在のような混沌とした外部環境に対応するには、まさにダイバーシティが不可欠です。私は、ダイバーシティとは、性別や国籍にとどまらず、さまざまな見識や、異なる事業経験の持ち主の力を掛け合わせることで実現されると考えています。

またイノベーションは、多種多様な人財が能力を発揮することで生まれてきます。したがって、執行側にはダイバーシティの推進を強く要請しています。

オムロンは、SDGsをはじめとするソーシャルニーズに応え、オムロンならではの価値を創造していきます。そのために、取締役会はこれからも引き続き、監督機能を発揮することにより、持続的な企業価値向上を実現してまいります。